こんにちは!おくりびとインターン 兼 次世代死生観研究所(仮)研究員の、ひなたと申します。普段は大学院生をしています。
前回の記事(学問としての死生観「死生学」)は読んでいただけたでしょうか?
前回は少し難しめの内容になってしまったので、今回の記事では私たちにとってより身近なあるものをテーマにしてみたいと思います。
ずばり、「季節の行事と死生観」です!
私たちは、季節ごとにさまざまな行事を楽しんでいますよね。
国や地域によってもいろいろなものがありますが、近年は日本でもハロウィンやイースターといった海外の行事が積極的に取り入れられ、より身近になってきています。
さて、行事といえば楽しいイメージですが、その中には死に関わるものも多くあることをご存知ですか?
そして面白いことに、死に関わる有名な行事の多くは、共通した死生観がベースとなっています。
それは「死者の霊が私たちのもとへ帰ってくる」という死生観です。
それでは、どんな行事があるのか実際に見ていきましょう!
①お盆
まずは、死に関わる行事として多くの日本人が一番に思い浮かべるであろう、「お盆」です。
お盆の期間はお盆休みとして休日になるため、とても身近な行事ですよね。
お盆は、旧暦7月15日を中心に祖先の冥福を祈る、日本における祖先の信仰と仏教が融合した行事で、盂蘭盆(うらぼん)とも呼ばれます。
お盆の期間には、私たちのもとへ祖先の霊が帰ってくるとされています。
帰ってくる霊をお迎えし、お供え物をしたりお墓参りをしたりして、おもてなしする(難しい言い方をすれば、祀る)のがお盆という行事なのです。
例えば、お盆といえばおなじみのきゅうりや茄子などで作った精霊馬は、祖先の霊魂があの世から行き帰りするときのために用意してあげるものです。
お盆の特徴としては、自分と血のつながった先祖の霊だけではなく、子孫がいなくなってしまい、どこにも迎え入れられなくなってしまった「無縁仏」もお迎えするという点が挙げられます。
ただ、どちらの霊も同じようにお迎えするというわけではありません。
先祖の霊は、子孫である私たちの家を見守ってもらうために丁重にお迎えし、送り出します。
しかし、どこにも迎えられない無縁仏は私たちに祟りを及ぼしかねないと考えられているため、無事に帰ってもらえるように供養をするのです。
このような先祖の霊と無縁仏に対する信仰は、仏教ではなく日本独自のものだそうです。
②ハロウィン
お菓子を配ったり仮装をしたりというイメージが強いハロウィンですが、もともとの起源は古代ケルト人の風習だそうです。
ケルト人の風習では、10月31日の夜に死者の霊が戻ってきたり、精霊や魔女が出没したりすると信じられていました。
そこで、悪霊から身を守るために仮面をかぶったり、魔除けの火を焚いたりしたのがハロウィンの始まりです。
次第にハロウィンはキリスト教の文化に取り入れられ、アメリカに広まってからは子どものための祭となっていきました。
③死者の日
死者の日とは、ラテンアメリカにおいて死者の魂を迎え祝う日のことです。
特にメキシコで11月1、 2日に行われる祭が有名で、2003年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。
日本でも、死者の日を舞台にした映画『リメンバー・ミー』が2017年に公開されたことで一気に知名度が高まったのではないでしょうか。
メキシコ人の「死」に対する態度はとても特徴的で、まるで「死を笑う」「死と親しむ」「死と戯れる」ように死者の日も楽しく盛大にお祝いするそうです。
(メキシコには昔から死にまつわるさまざまな風習が存在してきたそうで、改めて研究所で調べてみたいと思いました!)
おわりに
今回は3つの行事を見ていきましたが、どの行事も「死者の霊が私たちのもとへ帰ってくる」という共通した死生観がベースとなっているのは、やはりとても興味深いですよね。
では、なぜこれらのような行事は昔から現在まで続けられているのでしょうか。
これは私の個人的な考えですが、毎年巡ってくる季節の行事に死生観を織り込むことで、先祖のことを忘れないでいようという思いも途切れずに抱き続けられるからなのではないかと思います。
私たちが先祖を忘れないでいるということは、将来、私たちの子孫に私たちのことを忘れないでいてもらえるということにも繋がりますよね。
それはやはりとても嬉しいことだと思うのです。
もちろん、現在ではもともとの意味をほとんど意識せずに行事を楽しんでいる場合もありますが、ときには行事に込められている死生観に思いを寄せてみることも大事なのではないかと感じました。
私も今年のお盆はお墓参りをしたり精霊馬を作ったりして、もういない身近な親戚だけでなく、顔も知らないご先祖様や、血のつながっていない昔の人々にも思いを馳せてみようと思います。
次世代死生観研究所(仮)研究員 ひなた
参考文献
「盂蘭盆」. 『デジタル大辞泉』 小学館, 2022.
「盂蘭盆会」. 『改訂新版 世界大百科事典』 小学館, 2014.
「ハロウィン」. 『12か月のきまりごと歳時記』. 自由国民社, 2007.
「ハローウィン」. 『日本大百科全書』. 小学館, 1994.
「死者の日」. 『デジタル大辞泉』. 小学館, 2022.
井上大介. (2014). メキシコにおける死の表象とその変遷 : 「死者の日」とサンタ・ムエルテの比較を中心に. 創価大学社会学会.
佐原みどり. (2005). 死の隠喩と死生観 : メキシコ・シティにおける「死者の日」を中心に. 名古屋大学.